「そのにいにいは達人!」
海が見える美術館がいいな

  その昔、家を建てるならピアノのある白い家がいいと歌ったシンガーソングライターがいました。僕はジャグジーに浸かりビアグラスを傾けつつ柔らかな夕暮れの風に包まれて微睡む思考の中で沈みゆく南国の太陽を静かに眺めるこができる家がいいな。そう思ったから、夕日の美しい冨崎を建設予定地に決めたのでした。

土地は道路を挟んで防風林に面している。防風林の向こうに砂浜が広がり手の届きそうな海に竹富島、すぐ後ろに西表島が浮かんでいる。これらを景観を手に入れるには建物の高さが必要だ。完成後に「見えなかった」じゃ話にならない。適当にカンに頼る訳にはいかないのです。どうしたらその高さに立つことができるのか。

 考えあぐねた末に相談したら「梯子車を頼みましょう」と、美ら海不動産の大底にいにいが、ひらめき顔でのたまう。「赤いやつ?」僕は消防自動車しか思い浮かばなかった。「ほら、電気工事で電柱の高いところまでアームを伸ばし先端に人を乗せるカゴがついたやつがあるでしょう」うむ、たしかに。あれなら防風林の上まで届きそうだ。
「でもあれは梯子車っていうの?」どうでもいいことだけど僕はそんなどうでもいいことが些か気になる性分で、時として場を白けさせる。案の定大底にいにいは、すばらしいアイデアの前で何をつまらないことを、という当惑の表情をこしらえて言った「正式に何て呼ぶのかは知りませんけど…」大底にいにいは不動産以外の分野でも達人でした。
(にいにい=お兄さん)


トラック式高所作業車でばんざ〜い

 その日、約束の時間に少し遅れて到着した僕たちの目の前に、それは四隅をジャッキで固定された頼もしい姿でスタンバイしていました。「予行演習も完璧でいつでも操作できます。」の言葉を聴き終わる前に、僕たちはおっかなびっくりながらもアームの先端にあるバスケットへと搭乗動作を始めていました。

「おお、うむ、うひゃ〜」意味不明の感嘆詞を連発しつつそろりと上空へ運ばれる。初夏の心地よい日差しの中で、防風林ごしに望む海は大きく広がり凪いでいた。その先にうっすらと島影が浮かぶ。竹富と西表だ。思い描いていた通りの情景が僕たちを迎えてくれます。
 むしろ想像以上でした。もう少し上へもっと上へちょっと下げてと矢継ぎ早に指示を出し、そのたびに歓声を上げて相好を崩す僕たちに、アームを操作する作業員たちも笑みを浮かべていました。

 大がかりな(少なくとも高所恐怖症ぎみの僕にとっては大調査だった)を踏まえて上空からの目の位置は14メートル以上と決まる。建造物の高さは7メートルと制限されているから、ここに視点がくるには物見やぐらを作るしかない。視界を妨げる防風林の先端は12メートル。強風からこの身を守ってくれる防風林様の頭越しと言うのはいくぶん気後れもあるけれど、背に腹は代えられず何としてもこの高さを大げさに言えば死守。でなければこの地を選んだ意味がないです。

 ところが、この後の設計は「景観条例」の規制で大幅に変更されることになったのであります。「景観条例もありますが、運用は状況を判断してやっていきましょう。」と言う石垣市の担当者の発言を受けての建築設計だったのだが、物見やぐらはだめ、太陽光発電を乗せるためでも一部陸屋根というのはだめ、赤瓦の寄せ棟造り以外は認められない....との結果で、ご覧のようなカタチに落ち着いたのでした。
ま、この美しい石垣島を守るため景観条例にしたがうのは当然です。しかし、もうすこし柔軟な対応での景観の守り方を模索してもいいのではないかなあと、エコハウスを目指すNei Museum of Artはちょっぴり思うのでありました。